これは太祖ヌルハチの子 睿親王愛新覚羅多爾袞 (Dorgon, 1612-1650) の伝記小説である.彼は異母兄の二代皇帝太宗に仕え,彼の没後次代の幼帝の摂政として太宗の果たせなかった中華への進出を果し,北京を都とする大清帝国の基礎を確定した.作者の着眼点は彼の性格で,はじめは保身のため野心を隠して太宗の手足となり,その後も清朝の安定のために敢えて摂政に甘んじた挙句,自己の存在理由を失ってゆかざるを得ない心のあり方が克明に描かれる.それはまさに有病無福の人のそれであるが,しかし一方新しい王朝が形成される時の激烈な活気の中で生き抜いてゆくには人それぞれに生き方が分かれざるを得ないだろう.この時代の様々な生き方も,勿論この作品のなかに活写されている.とにかく抜群に面白い.大人向きに推薦.