「海底牧場」初版は1957年、アーサー・C・クラークの海洋物SFです。2008年に巨匠クラークは世を去りハヤカワが名作セレクションと題して追悼したものを入手していましたが今更ながら読み終わりました。
21世紀の人類が牧畜ならぬ鯨畜を行い、食用の鯨を海底で家畜化し食料自給量を賄うという話です。世界人口の急増に伴い将来的に必ずや起こるであろう食料の奪い合い、穀物(小麦、米、とうもろこし、じゃがいも等)の争奪などこれからの人類が直面するであろう問題も踏まえつつ興味深く読みました。
要は人間が牛を飼うのと同じく海中で超音波柵やソナー(磁場)を使って一定の牧場に囲うというものですね。鯨にも種類がいてシロナガスクジラ、ザトウクジラ、マッコウクジラなど様々なものが登場します。牧羊犬ならぬ牧鯨魚(シャチ)など感覚的には陸上と同じ。
(159、10行)「昔アメリカの中西部が開拓された当時に、自作農と牧畜業者の間で見られた競争意識を~」海底牧場が出版された1957年代には既に牛一頭を生産するための飼料(とうもろこし等の穀物)に掛かる経費と牛一頭当たりがもたらす経常利益の対立は起こっており、それをクラークは鯨で応用している。
捕鯨反対という論調よりも純粋に食料自給生産を賄う上で、鯨を飼育する為に必要なプランクトンやオキアミなどのコストの話も出ており全く同じ。今も同じような問題が解決されてません、肉食止める→大豆ハンバーグにする→人類が全員菜食に切り替える→大豆などの穀物生産が追いつかない。
また乳牛ならぬ乳鯨などクラークが設定した世界では丸きりこの様な感じでした。
(325、8行)「分離式イオン交換フィルターの完成によって、金属不足の悪夢は、永久に解消されていた」最近韓国で海水からリチウムを採取して実用化することに世界で初めて成功したと報じられましたが、こんな感じで海洋資源全般に於いての開発が立ち遅れているのが現状です。実際、今の人類では鯨牧は技術的に不可能ばかりか倫理的に問題視される有様で…一部の環境保護団体と名乗る過激派の存在もあってか絶望的でしょう。
鯨肉と言うものを食したことの無い世代なので、鯨牧という奇想や着想に面白みを感じたり海洋ものに惹かれる方は読めると思います。ただ冒険譚ではジュール・ヴェルヌ「海底二万里」や奇想では安部公房「第四間氷期」などの方が上であり少々退屈には感じました。それでもクラークの先見性には驚くべきものがあるので牧鯨有りだなと思わせてくれる一品です。