吉本隆明の「真贋」という本で 三木成夫の名前をはじめて知り すぐに一冊読んでみた。大変面白かった。
一点目。人間が受精以来 出産に至るまでの10ヶ月に 生き物の進化を通ってくるという話が大変面白かった。魚ー両生類ー爬虫類という動物の歴史を 母親の中で僕ら自身が辿ってくるという事実には大変示唆されるものがある。その意味で太古の記憶が 自分自身の歴史として 僕らの心のどこかに残っている可能性は十分にあると思った。自分の心というものは 自分にとって中々難しい。僕らの心という「沼」に時折ぶかりと浮いてくる泡のようなものがあるとしたら それはそんな太古の記憶なのかもしれない。
二点目。産まれて間もない赤ん坊の認識についての話が勉強になった。内臓の一部としての「口」を認識する手段として 赤ん坊が何でも口に入れて物事を学ぶという話は 目からうろこが落ちる思いであった。
僕らも自分が赤ん坊の頃の記憶は無い。しかし これも先ほどの太古の記憶と同じく 心の中に必ず残っているのだと思う。そうして そんな記憶が時として僕らに何か影響を与えていると思うのだ。
三点目。人間がいかに月の満ち欠けなどの 外部の自然現象に影響を受けているかという点に惹かれた。
月は地球から偶然飛び出た天体であり その大きさ、引力の強さ、満ち欠けの期間は いわば偶然に決められたものだが その偶然が 必然となって僕らに影響を及ぼしている様には驚いた。女性の月経という言葉にもある通り 昔の人も これに関してはよく知っていたわけである。
以上三点を考えてみると 要は 人間という哺乳類の一種を理解するにおいて 僕らが動物であるという視点は極めて示唆に富むということなのだと思う。吉本隆明も 三木の本から「対幻想」という吉本自身の人間論を強化することが出来たとあとがきで書いている。繰り返すが 僕らにとって自分のこころは 案外厄介で理解できないものだ。そんな難物に立ち向かうにあたって この本は大変参考になると考える。