元々はフリーライターで、40代半ばとなってから大学院へと進学し、無脊椎動物(の中でも専門はウミウシの生態)の研究者への道を歩み始めた著者による無脊椎動物ガイドブック。いかにもフリーライターらしい野次馬根性と親しみやすい文章の一方で、専門用語・学術用語が頻出するところなどは、「駆け出しの研究者」らしさを感じさせる部分もある。もちろん専門用語には丁寧な説明がしてあって、辞書を引かなければ分からないような部分は皆無だし、著者の周囲の無脊椎動物研究者たちのエピソードも面白い。無脊椎動物へのガイドブックであると同時に、無脊椎動物研究への案内書として読むことが出来るのは魅力だ。
そして本書の監修者である広瀬裕一琉球大学教授による後書き、「おわりに」が素晴らしい。広瀬教授自身、本書を通じて(?)
>世の中にはいろんな動物がいるもんだとあらためて感心した。
とのことだ。そして
>あなたの周りにはたくさんのカードが伏せられたままになっているのだ。
>まずは、近くにあるカードからめくってみたらどうだろう。
と、不思議と驚きに満ちた無脊椎動物の世界の探求へと、我々を導いてくれる。
実はベテランのダイバーであっても、ウミウシなどの一部の人気動物を除けば、無脊椎動物への関心は意外に低いことが多い。むしろ寄生生物への対応の必要などから、マリンアクアリスト/リーフタンクキーパーの方が海産無脊椎動物については詳しいだろう。
しかし我々人間を含めた脊椎動物などというものは、多様な生物の分類群の中の、ほんの一部に過ぎない。とりわけ海の生態系においては、“主役”はむしろ無脊椎動物だと言って良いのだから、こうしたガイドブックが普及することによって、海の無脊椎動物に関心を寄せる人の数がどんどん、増えてくれれば良いと思う。広瀬教授の「おわりに」にあるように、
>名もない地味な動物が、生態系の維持や安定にとってなくてはならない役割を担っているだってある。
からだ。
元々が『月刊ダイバー』での連載を大幅に加筆修正した内容ということで、全体としてややまとまりに欠ける印象は残るが、そもそも無脊椎動物という表現自体、本来はバラバラな「脊椎動物以外の動物全部」を、無理やり一つにまとめた呼び方だ。「真ん中に一本筋を通す」こと自体、「無脊椎」には似合わないのかもしれない(苦笑)。
それぞれにバラバラなところがまた不思議に魅力的な沢山の無脊椎動物たちに敬意を表して星4つ。