理想主義者で、仕事が好きで、そして女性に弱い男、富岡。夢を抱かず、富岡がどんな女と関係を持とうが一心に愛し続ける女、ゆき子。
終戦直後の混乱の中で、その日その日をあがくように暮らす男女の姿。ひたすらに落ちていく絶望の底で、人間が何を考え、何を愛するのか。激動の時代の中で、愛の姿をとことん突き詰めた名作です。
ゆき子の心は林芙美子そのもの。そして富岡は後に建築家として名を成す白井晟一がモデルになったと考えられます。小説の中でゆき子は林芙美子のように突然の死を遂げ、富岡は生涯の仕事に行き着く。ゲーテの『ファウスト』のテーマを、女性の視点から、終戦直後の日本で展開したとも言えるでしょう。
絶望を垣間見ている今の日本人にとって心に響く究極の恋愛小説といって過言ではありません。