著者の関心は、浮世絵に接し始めた時から、「鑑賞する」よりも「調べる」こと。その楽しみを、読者も体験して欲しい。それが本書の狙いだそうです。1枚の浮世絵が、「何を」、「誰が」、「何時ごろ」、描いたのか。残されている僅かな資料から、その謎を追及し明らかにしていく。著者が実際に行なった考証の道筋を開示して、共に謎解きすることへと誘います。
我々は、普段1枚物の浮世絵しか見られません。しかし、その1枚の絵を知るには、先ず、同類の絵を出来る限り集めることが最初の一歩だそうです。次にその絵の様式や他の歴史証言史料から、おおよその年代を仮定。そこからは、絵の内容で、同時代出版の案内宣伝書などが異なり、調べる手段が違ってくるそうです。美人画、役者絵、名所絵に大別し、9人の絵師の絵9枚を、考証の俎板に載せています。我々は、名料理人の包丁裁きを横から見て、料理の仕方を学ぶことになります。▽美人画は、吉原遊女を宣伝した「吉原細見」を繰って、浮世絵に書かれている遊女屋名、花魁の名前、禿の名を照合して、年代を推定。▽役者絵では、「歌舞伎年表」と当時の番付類から、絵中の役者名と劇中の役柄を推定する。などなど広重の版下問題まで手堅い考証が続きます。▽関心を惹かれたのは、著者が言うイメージ環境です。絵師が置かれていたイメージの環境から、当の絵を絵解きする。面白そうです。イメージの継承と発展は確かにありますね。
最初は、タコ壺の穿鑿事と見えます。しかし、誰でも納得できる論理の運びに従って、素直に読んでいくと、考証の深みの面白さに引き込まれていきます。読み終わって、浮世絵考証のディープな世界から目を上げて、江戸の浮世絵文化全体を改めて見回してみます。断片的で孤立していた個々の浮世絵が、糸でかがられたように有機的な関連の中で見られるようになるのが感じられます。