「好きな監督を3人教えて」の質問に対し、ジャン・リュック・ゴダールが「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」と答えたという話は、伝説化している。
「雨月物語」「近松物語」「西鶴一代女」等に色濃く出ている日本情緒に対する憧憬の念が、その理由だろうと漠然と考えていた。
実は最近「浪華悲歌」をはじめてみた。そして衝撃を覚えた。1936年(昭和11年)の作品であるにもかかわらず、フランス・ヌーベル・バーグの世界なのだ。
ゴダールの「女と男のいる舗道」は、もう間違いなく「浪華悲歌」にインスパイアされた作品だったのだ!
ゴダールの溝口好きは、自分にないものに対する憧れなどではなかった。ゴダールが60年代初頭に表現したことを溝口はその四半世紀前に表現していたのだ。驚くべき先見性だった。
貧困や女性が生きていくことの難しさが、「浪華悲歌」の根底にある。この時代、このことは別段、珍しいことではない。しかし山田五十鈴演じる主人公が、とにかく現代風というか、スケール感のある激しい女性だった。当然の帰着として、家族、周辺人物、世間と大きな軋轢を生んでいくが、そこがこの作品の見所となる。鮮烈な女性像だった。
文春の「日本映画ベスト150」は、この作品を59位に選んでいる。だが1936年にこんな作品があったことは、日本でもあまり知られていないだろう。
将来この作品は、世界レベルで再評価されるはずだ。世界の映画史の中で語られるべき作品だ。