'70年代を象徴する「漢」が、また一人逝ってしまった・・・
原田芳雄の代表作としては、ひょっとしたら『竜馬暗殺』の方がカリスマ的な人気がある作品かもしれない。あるいは、ちょっと変化球で鈴木清順監督の諸作、というのもアリかもしれなかった。
しかし、なぜか自分にとって、まず脳裏に浮かんだのはこの『浪人街』だった。リアルタイムで劇場で観ることができた作品だったから、思い入れもあったのかもしれない。原田氏の最後の舞台挨拶の時に、声が出せなかった氏の代わりにコメントを読み上げたのが、本作で共演している石橋蓮司氏だったことも、この映画での2人の関係性と重なるようで、印象深かった。
原田芳雄というと真っ先に「アウトロー」というイメージが浮かぶ。ワイドショーの追悼特集も、しきりとこの言葉を使っていた。原田氏は、いわゆる「美男・美女」スター中心の華やかな活動シャシンの時代から、ATGといった作家・思想主義へと日本映画が多様化していく時期に登場した新世代の俳優だった。そして、当時の「怒れる」若者の心を代弁するようなキャラクターと個性で、多くの観客に強烈なインパクトを与えた。
こうしたキャラクターは、単なる「おっかない不良」ではなく、多くは社会での弱者の側にいるキャラクターだ。
本作『浪人街』で原田氏が演じる荒牧源内もそうしたキャラクターだ。かつて蘭学を志すもそれに挫折し、今はひねくれ貧乏浪人の日々・・・。
タイトルからも判る通り、この映画に登場するのは、貧乏長屋に住むさえない浪人たち。今の世で言う「負け組み」だ。しかしそんな浪人たちが、仲間の遊女たちを、悪どい旗本たちの暴虐から守るため立ち上がり、「権力」に立ち向かってゆく。
凄腕の剣客で、きまじめな母衣権兵衛を演じる石橋蓮司。数々のテレビ時代劇で、マジメな武士から卑怯な悪役まで実に多彩に演じわける名人芸が印象的です。
藩への帰参をひたすら夢見る土居孫左衛門、を演じるは田中邦衛。これまた、ほんのチョイ役でも凄い存在感を出す大好きな役者。田中氏が主演した刑事ドラマ『裸の街』(原作はエド・マクベインの「87分署シリーズ」!)は少年時代の好きなドラマのひとつでした。
そして、長太刀を腰に差しつつも、いまひとつ肝っ玉の弱い酒場の用心棒・赤牛弥五右衛門を演じる勝新太郎!もう説明不要ですね。勝新のテレビ時代の『座頭市』と『警視−K』はほとんどアドリブで製作された、超アヴァンギャルドなドラマで、この時の方法論が本作『浪人街』にも生かされていると思われ(黒木和雄監督もTVの『座頭市』で何度か監督していて、もちろん原田芳雄も出演!)、勝新と原田芳雄のからむシーンは、絶対ほとんどアドリブだな・・・と思うくらいキャラクターが生き生きとしています。
こんな強烈個性の役者たちの中にあって、それでも主役は原田芳雄!と際立った存在感を見せつけるそのやんちゃぶりというか、八方破れというか、天衣無縫というか・・・もう最高です。とにかく観ていない人は観て下さい、と言うしかない。
ラストの旗本120人斬りの大殺陣!
原田芳雄の、腰に何本も刀を差しての盲滅法のケンカ剣法。
白装束に迫真の抜刀術で、次々と斬り伏せる石橋蓮司。
甲冑姿で暴れ馬に乗り、大立ち回りの田中邦衛。
そして勝新は・・・本作で殺陣をほとんど披露しない代わりに、おいしい役を持って行きます。
やっぱりこの作品も、権力への「反抗」の物語なんですね。
「反抗」の時代を体現したアウトロー俳優・原田芳雄の勇姿は、映画と共に不滅です。