宇都宮直子さんは、バンクーバーオリンピックシーズンに、「フィギュアスケートに懸ける人々−なぜ、いつから、日本は強くなったのか」という本を出版しています。
日本がフィギュアスケート王国となる歩みについて、愛知県中心に考察した本です。
文章も構成も荒削りではありますが、きちんとした取材に基づいた本でした。伊藤みどりさん、山田満知子コーチ、佐藤信夫コーチ、小塚嗣彦コーチ、スケート連盟の吉岡強化部長、プリンスアイスワールドの西田美和さんなど、様々な人に取材しています。
この企画で人脈を作ることができたのだから、「浅田真央」シリーズの最新刊はさぞ中身の濃い内容になるだろうと期待していました。
しかし、その期待は見事に裏切られました。
まず、「15歳」〜「18歳」で述べられた内容の繰り返しが散見されました。せっかくの五輪シーズンなのに、過去の話にかなりのページ数を割いたのはなぜ?
また、真央選手を支える人々についての興味深い話はほとんどありませんでした。
ウイダーサポートと小林れい子氏の存在は、全シリーズ通してスルー。五輪シーズンにおける小塚コーチのサポートについてもスルー。
長久保コーチや佐藤信夫コーチは名前が出ているだけ。
タラソワコーチについての記述は多いですが淡白。
宇都宮さんが「鐘」のプログラムに疑問を感じるなら、もっと突っ込んでタラソワコーチにインタビューして欲しかったですね……。
ヨナ選手についての記述は多いですが、ヨナ選手のことよりも他に書くべき事柄はたくさんあったでしょうに……。五輪シーズンという素晴らしい素材をうまく料理できていない。
ところで、このレビューをお読みになった方の中には、「浅田真央の物語なのだから、コーチやサポート陣営の話はいらないのでは?」という意見もあるかもしれません。
でも、よく考えてみて下さい。どんな優れた選手でも、自分一人だけの力ではトップに立つことはできません。さまざまな人に支えられて、栄光をつかみとることができるのです。
五輪シーズンにおける真央選手の「恩返しをしたい」という発言はそういう意味です。
ですから、選手を支える人々の話をちりばめてこそ、選手個人の物語も深みと説得力が増すというものです。
吉田順さんの「浅田真央 さらなる高みへ」を読むとそのことがよく分かると思います。
以上のことから、真央選手への愛情は感じられますが、ルポタージュとしてはかなり完成度が低いように思います。厳しいですが星2つで評価させていただきました。