関東軍の策略により、満州国皇帝の弟と政略結婚した浩さんの波乱万丈の半生が
綴られた自伝。平和な世の中に平々凡々と暮らしているわが身には計り知れない
辛酸を舐めてきた浩さんから発せられる言葉は、どんな小説の主人公よりも
重い響きを持つように感じた。
家族や友人もいない全くの異郷の地、満州に渡った彼女の心細さはいかほどだっただろう。
そして、戦後の逃避行の日々、夫の安否不詳、収容所送り、最愛の長女の死、
長い月日を経てようやくめぐってきた夫との再会の果てに待っていた文革の嵐。
この自伝を読んでいると、日中二つの国家の狭間で翻弄され続けた中国の残留孤児を
扱った山崎豊子氏の小説『大地の子』を思い出す。
浩さんも日本人であり、傀儡皇帝の弟妃であるために中国で大変な逆風と迫害に
耐えてこられたのだが、もっと貧しい身分の日本人孤児のたどった運命はさらに悲惨
なものだった。
戦後まもない中国は、日本人にとっては大変苦しい逆風・迫害の時代だった。
しかし、浩さんの自伝にも出てくるように、少数派でも、なかには日本人に救いの手
を差し伸べたり、国籍にとらわれず一人の人間として扱ってくれる中国人たちも
いたということは特筆すべきことかもしれない。
また、満州国宮廷での生活の様子や当時の日中相互の権力関係に興味が
おありの方は、最後の皇帝「溥儀」や后の自伝なども合わせて読むと、その
当時の時代背景がもっと際立って、見えてくるのではないかと思う。