本書は、日本企業の復活に向けて書かれた本格的な学術書であり、世界的に注目を浴びている経営理論である
Managing Flow - A Process Theory of the Knowledge-Based Firmが日本語で論じられている。
とはいえ、さまざまなケースをふんだんに盛り込み、理論が腹に落ちるように工夫がなされている。たとえば、現代におけるパナソニックの改革、本田宗一郎の逸話、ソニーの経営哲学、トヨタエコプロジェクト、東レとユニクロの共同研究などなど。ほかにも、三井物産、無印良品、前川製作所、東芝、公文、キャノン、エーザイ、イトーヨーカ堂等のケースも紹介している。これらの活躍を、世界的な経営学者である野中郁次郎氏を中心にまとめた名作として仕上がっている。―――現代を生きるビジネスマン、研究者、コンサルタント、そして将来の日本経済を支える大学生や大学院生などにも読んでいただきたい書といえる。可能であれば、ナカニシヤ出版の
組織は人なりもあわせて読むことをおすすめしたい。
本書を読み込み、みなで組織を、日本を、そして世界を変え、社会的な価値を創造しようではないか!
以下は、お気に入りの文章である。
「個々の企業が利潤最大化を通じて株主利益を追求することにより、結果として社会全体の「善」や幸福が達成されるという経済学の功利主義的仮定は、現在修正を迫られている。企業を単に利潤獲得の道具として扱う欧米型の企業観は、もはや限界が来ているように見える。イギリスの『エコノミスト』誌では、昨今の世界的な金融危機がもたらした企業の業績至上主義に対し、「アングロサクソンは企業を「株主への報酬を最大化するために、自由に売買、合併、解体できる金儲けの装置」とみなしている」と批判している(はじめに、4頁)」。
「人が「信念」を抱くとき、またそれを真であると認めると正当化するとき、それを全くの無の中でおこなうということはありえない。他人とのやりとり、これまで学んだこと、自分を取り巻く環境、こうしたものとの関係から信念は生まれ、その関係の中で正当化されていく(7頁)」
「われわれが環境によって、規定され生成される受動的な存在だということはない。逆に、われわれは環境との関係の中で自身を規定し、環境を再定義し、再生する能動的な存在なのである。プロセスの本質は未来に向けた創造的統合にあるが、その未来を描くのも、そこへ向けて統合をおこなうのも、人の意思である。われわれと世界の関係は、われわれが「どう成りたいか」による(16頁)」。
「企業にとっての新たな事業機会、新規の市場、新技術や新たなビジネスモデルは、将来のビジョンと、そのビジョンを定める価値観や理想、組織メンバーの審美的な感性に基づいている。たとえば、ソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書には、会社設立の目的として「真面目ナル技術者ノ技能ヲ最高度ニ発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」とある。このビジョンと「愉快ナル理想工場」とは何かを判断する組織成員の価値観や感性が、ソニーという企業とそのユニークな製品群を生み出してきたのである(18頁)」。
「知は人が創る資源であり、知を創造することは自己の周りの環境を作り変え、未来を創造するということである。したがって、それはまた「人を動かし、未来へと動かすものはなにか」という問いでもある(44頁)」。
「陰陽のシンボルは、対立が一体した姿であり、陰陽のいずれも独立して存在しえず、いずれも「正」でも絶対でもないことを示す。この両者はどちらも他方の存在なしには成り立たず、完全ではない。つまり、陰陽は対立ではなく互いを補完しつつ共存しており、どちらか片方が真実であると証明されることはないのである(54頁)」。
「本田宗一郎は、企業が技術を開発し、製品として社会に生かしていくためには、ゆるぎない哲学が絶対的に不可欠であると主張していた。社会のためになる技術を創造するのは人であり、その思想・哲学であるのだから、「技術よりまず第一に大事にしなければならないのは、人間の思想だと思う。カネとか技術というものは、人間に奉仕するひとつの手段なのである。・・・(中略)・・・人間を根底としない技術は何も意味をなさない。・・・(中略)・・・企業発展の原動力は思想である。したがって、研究所といえども、技術よりそこで働く者の思想こそ優先すべきだ。真の技術は、哲学の結晶だと思っている」と本田は述べている」(102頁)。