ヒチコック作品としては、サスペンス要素が甘い。ただ、監督自身が、ほれ込んだグレースのコケティッシュさと気品ある美しさの内に秘めたセクシーさを最大限に引き出した作品。
二枚目のケーリー・グラントを、監督は自分に置き換えて疑似恋愛を楽しんでいたのだろう。
甘いロマンスとサスペンスが同時進行していくが、ラブシーンの表現のなんてエレガントなこと。抑制のきいた意味ありげな台詞。花火が上がると同時に、直接描くことをせずに「メイクラブ」を想像させる優雅な演出。
ホテルの廊下で、初めて二人がキスするシーンの、グレースの美しさ。クール・ビューティーの語源となった名シーン。
衣装も楽しめるし、二人の会話、特にグレースのチャーミングな台詞がいい。結構、性的な意味も二重に含んだ台詞がふんだんに出てくるが、彼女が言うと何か違う次元の事に聞こえる。検閲が厳しかった時代の精一杯の性表現。
リビエラの海岸に向かう、グレースに着せる水着を、ヒチコックは衣装デザイナーの大御所イディス・ヘッドに「だれもが振り返るような水着を」と要望した。彼としては、大胆なビキニを想像していたらしいが、モノクロのシックで上品な水着。グレースの魅力を最大限に生かした素晴らしいデザイン。原色の水着であふれかえっているリビエラの海岸に、この装いで現れたら誰もがうっとりとしたはず。
女性が、グレースの身のこなし、会話、ファッションなど、お手本にしたい作品。
リビエラの丘で車を止めて「チキン」を二人で食べるシーンがあるが、皮肉なことにこの丘の道で彼女は車の事故で亡くなった。
また、この映画の撮影中に、モナコ王室を訪れたことがきっかけで、レーニエ大公と結婚することになったのは、有名な話。