2008年5月、三重県桑名市にある中堅ゼネコン、水谷建設の会長、水谷功は、11億4千万の脱税により、三重刑務所に服役した。そして、1年半後、彼は獄中から複数のマスコミに、「小沢一郎への裏献金」を告白した。検察の暗黙の了解もあっただろうし、水谷の心境の変化も関係したに違いない。検察審査会が後に「起訴相当」と議決した「小沢一郎事件」の始まりである。これに関連して、小沢の秘書だった大久保、石川両被告は、水谷建設から4回に渡って現金を受け取ったとされる。そのうち、3回については立会人もいる。現在公判中であるが、近く、水谷功本人が「弁護側証人」として法廷に立つという。
この書物は、「平成の政商」と呼ばれる水谷功とその人間関係、日本の土木工業の「談合」の実態、政財界の裏世界を流れていく「泥のカネ」を徹底的に追いかけたものである。その内容は、例えば「東北談合の天の声」「福島県知事汚職事件」「談合屋の生態」「大阪府知事選(太田知事)で結集された関西談合組織」「裏金づくりーー捜査の網をかいくぐる術」「北朝鮮利権」「西松建設事件ーー二階俊博」「野中広務、政界引退の理由」「カジノ通いの理由(マネー・ロンダリング)」等々、まことに興味深いものである。
評者は、特に「福島県知事汚職事件」について、関心を抱く者である。なぜなら、この事件は、どのように考えても「東京電力福島原発問題」が背景にあるが、検察は、一番肝心な「原発利権の解明」について完全に失敗しているからである。
「東日本大地震」以来、東京電力と監督官庁である経済産業省の過去の不作為が批判されている。1990年代以降、度重なる原発事故とデータ改竄事件は、日本のエネルギー政策の行方に関心を持つ者を憂慮させてきた。その意味で、佐藤栄佐久知事の東京電力批判とプルサーマル計画の見直しは、一定の支持を得たものだった。しかし、東京電力にとっては、操業停止は一日一億円の損害を生むものである。地域経済や「J・ヴィレッジ」への貢献を無視しているように見える福島県の対応は焦りを感じさせたに相違ない。
このころ、前田建設が、東電原発の残土処理事業を60億で受注し、それを手数料を抜いて水谷建設に請け負わせ、水谷建設はさらに孫請け会社を使って処理をすることになった。土木が行うこういった手法は、リベートや裏金作りに有効なものである。それでは、このときに作られたカネは、何のためのものなのか。結果的に、不自然な操作が名古屋国税局の注意を呼び、「所得隠し」と認定されてしまったのだが。
福島県知事汚職事件では、「原発に反対する知事を東電がつぶした」「知事は、『知事抹殺』という本を書いて、検察の国策捜査を批判した」と評されることがある。
このことの真実について、著者は、検察OBの言葉を引用する。「当初の特捜部の狙いが、東電絡みだったことは間違いない。そこでは、水谷が(東電の意を受けて)知事を懐柔するために(2002年8月、8億7千万その後2003年プラス1億円という不自然な土地売買という形で)近づいたという事件の見立てだった。その方が正しかったのではないでしょうか(82ページ)」。
付け加えれば、この2003年7月、東京電力福島原発は再稼働している。
政治と行政、利権との闇は深い。