聖徳太子を信奉し、法隆寺を生涯の研究テーマとしてきた碩学による、研究歴を振り返りながらの法隆寺論です。校正がしっかりしており、これぞ岩波新書という本の作りとなっています。(ただし、これも岩波新書らしいのですが、図版が小さめで、わかりにくいところもあります)
法隆寺の境内を著者の案内で歩くという書き方ですが、案内とはいいながら、かなり高度で、この著者の書いたものは初めてという方には噛み応え十分の内容です。とくにご自身の研究史にかかわる記述は、その道の研究者やこの著者の著書をすでに読んでいる方でないとピンとこないかもしれません。
また、著者は法隆寺に関する近年の調査研究成果や論議にはあまり関心をお持ちではないようです。(これに関しては、ちくま新書『法隆寺の謎を解く』をお勧めします)
「法隆寺が誇るべきことは、…聖徳太子の追善のために、貴賎を問わず、太子を慕う多くの人びとの寄進によって金堂が創建されたことです」と著者はいいます。そう思いたくなるのは山々なのは多くの読者とて同じでしょう。しかし、このあたりは著者の願望が溢れすぎて、歴史のリアルから乖離している危惧を抱きました。
(この点でも前記ちくま新書の併読をお勧めしたくなります)
総じてこの本は、信仰心にあふれた著者・上原和を知るのに相応しい本といえるでしょう。
【追記】図版引用元一覧の末尾に、「著者自身が撮影した法隆寺境内の写真を数多く使いたいと考えていたが、残念ながら、そうすることができなかった。」とある。どういう事情があったのかわからないが、著者の無念さが滲み出ている。法隆寺側と何かあったのだろうか。読者としても気になるところではある。