おんぼろ船「潮まかせ」で漕ぎ出した、引退した漁師のじいさんバート・ダウは、くじらのしっぽを釣りあげて、その穴に絆創膏を貼ってやります。ところが海が荒れ出し、じいさんは船ごとくじらにつっこんで……。
ボストンの街を変えた『かもさんおとおり』で有名な、マックロスキー1963年の傑作。「気まぐれエンジン」を「チャカチャカバン!」と言わせ、元気に海へ出ていく主人公のじいさんは勿論のこと、相棒の「おしゃべりかもめ」、敵か味方か不明のくじらたち、脇役の妹「リーラ」さえ、一般の小説をしのぐ高いレベルで、見事に人物像が構築されていることに、まず驚かされます。
そして、古き良きアメリカのおおらかさ、上質のユーモア精神のなんと壮大なこと。くじらの胃袋に入り込んで嵐をしのぎ、くしゃみを起こさせて飛び出すという発想の、ユーモラスなビッグさ。自分も「ばんそうこう」を貼ってほしいと迫ってくる、くじらたちのお茶目さ……。
また、忘れてならないのは、ため息ものの見事な絵。「潮まかせ」号は緑とピンクのしましま、じいさんは赤白ストライプのTシャツに、黄色い雨ガッパスタイル。その配色センス! そして、海という不定形で巨大なものと、人間やかもめや道具という細かいものを、スケール感正しく描き出すリアルな力量。
また植物も含めてすべての生き物、そして海を深く愛する心にも胸打たれます。たとえ釣り針でできた小さな穴でも、そこから「中の脂肪がながれだして」しまわないように、じいさんは命がけで、くじらに絆創膏を貼るのですから。
芸術的に完成された絵と、先の読めない軽妙なストーリー。そして、渡辺茂男さんの名調子の訳文。こういう本に出会えるから、古い絵本漁りはやめられない。そう思わせてくれる究極の一冊です。