日本の有名な自然科学者の中には、伝統的に、寺田寅彦氏,中谷宇吉郎氏,湯川秀樹氏,岡潔氏など、文章を書いても一流であるという方々がおられました。著者である藤原正彦氏もその流れの中に位置づけられます。また著者は、両親がともに偉大な作家であったことでも知られています。
私は著者を尊敬しており、2003年頃から、産経新聞や読売新聞に文章が載るたびにコピーして、線を引いたりしながら何度も読み返していました。この本は、それらの文章を一冊にまとめたものです。(新聞に載ったもの以外にも、文藝春秋に発表されたものなどを収録しています。)文庫本なので値段も手ごろで、持ち運びにも便利です。
内容は、ご自分の家族のこと(父である新田次郎氏との思い出や、満州からの引き揚げのことなど),日本について,学びについて,他の作家の批評,日々のエッセイ,・・・と多岐にわたっています。もちろん、題名にもあるように主題は日本についての論評であり、ページ数でいえば全体の約半分が費やされています。
その日本に関する論評では、基本的な考え方は『国家の品格』に示されていたことと同じですが、『国家の品格』では、「論理と情緒」という観点から日本と欧米を比較してかなり一般的なことを述べておられたのに対して、この本では例えば小泉政権の構造改革についてなど、個々の事例について具体的に論じておられます(『国家の品格』が講演内容に基づいているのに対して、この本に収録されている文章は新聞や雑誌に発表されたものなので、当然といえば当然ですが)。
著者の文章が素晴らしいのは、様々な出来事について一貫して、今ではかなり失われてしまった日本人の伝統的価値観を踏まえながら論じていらっしゃることです。それゆえ、軸がまったくぶれません。今の日本人は(私も含めて)外国人と向き合った時に「日本人らしさ」を要求されても、自分の中にまったくそのような要素を見出せず愕然とすることが多いという話をききます。多くの人がこの本を読み、考え、行動することは、そのような状況を改善することにつながると私は信じています。