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82 人中、71人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
そのニヒリズムは必要か?,
By あたりや55 (東京都葛飾区) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 決壊 上巻 (単行本)
過去、これほどまでに読み手に試練を要求する小説は存在しなかったと思う。作者は本作がドストエフスキーの影響下にあることを公言している。 しかし、本作はドストエフスキーですら想像できなかった現実、すなわち、唯一の希望であるはずのアリョーシャが最初に斃れて(斃されて)しまう「状況」を起点としている。(もちろん、比喩的な意味です) 市井のオッサンに過ぎない当方としては、正直言ってそのような状況には向き合いたくない。向き合いたくないが、読まなければ「こちらの負け」である。 で、嵐のようなハードパンチを耐えつつ、最終ラウンドまで戦い抜いて何が見えたか? それは、いかなる叡智・理性をもってしても、膝を折らざるを得ないほど歪んでしまった社会構造である。 そのことを持ち駒を使い切って提示した作者の努力は賞賛に値する。恐らく、今の文壇に同一テーマを描ききれる才能は他にいない。 しかし、私は本作をどうしても肯定することができない。なぜなら、衝撃的な結末に持ち込むために、他者への想像力、あるいは素直な人道主義というものが踏み台にされている気がするからだ。そこまでのニヒリズムを貫き通す必要があったのか? 小説とは「希望」や「救い」、「活路」を示すための装置だと思う。別にハッピーエンドなんて望まない。微かな光さえ示されていれば、読み手には伝わる。本作にはそれがない。 人に本作を勧めるべきかどうかも分からないし、読んだ人と本作について語り合うのも気が引ける。そもそも、本書を読むのに費やした時間が自分にとって有意義なものだったのかどうかも分からない。そういう本である。
13 人中、11人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
現実から目をそらすな!,
By 夢見 - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 決壊 上巻 (単行本)
読み終えて30分くらい放心してしまった。未成年の犯罪、家庭内の犯罪、家族の崩壊、ネット社会の闇…、ある事件を通して現代性を描ききっている。 そして考えたくもないが、家族というものが、その言葉だけで力を持っていた時代は終わった、その言葉が何かを繋ぎとめているというのは幻想に過ぎないと、喉元に突きつけてくるかのような救いようのない結末をもって、じゃあどうすれば?の前に、まずはこんな時代だという現実を正しく認識しろと言わんばかりだ。 「ホテルルワンダ」という映画の中に、「(難民や内戦をニュース映像で見て)可哀想ね、と言いながら食事を続ける(先進国の人々)」という意味のセリフがあるが、この本は、読後未成年や家族間の犯罪などのニュースを見ると、食事が続けられなくなる位の威力を持っている。 その種の犯罪が、自分の住む町で起こったと考えられる位、その恐ろしさが皮膚感覚に迫ってくる。 少年の母親の描写も秀逸。 親子関係…特に女親と息子の間には、多かれ少なかれこういう面があると思う。 だからこそ、この描写が一番恐ろしかった。 人に勧めにくいが、現実に起こっていることを描ききっていること、文学的に極めて高度な構築力があること、現実を直視するという意味で、覚悟をして読んで欲しい。 自分より若い人が、これを書いたということにも、ショックを受ける。
13 人中、11人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
ドストエフスキー的興奮で、寝食忘れて読む,
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レビュー対象商品: 決壊 上巻 (単行本)
凄い。ドストエフスキー没して百年余。ネットや映像等のメディア内では、誰もがラスコーリニコフになりうると同時に、誰もがラスコーリニコフを裁く判事となりうるし、イヴァン・カラマーゾフに殺人を示唆されたというスメルジャコフになりうる。そしてこの小説においては、スメルジャコフ的遺伝子をもち、スメルジャコフ的成育環境にあった者たちの復讐とも言うべき事態が起こる。 この小説の凄さは、ドストエフスキー的な対話を軸に、ネットやメディアに溢れる言説を本物そっくりに活写し、かつ登場人物ひとりひとりの血を、体温を、リアルに濃密に伝えてくることだ。 残虐な連続殺人に対して、メディアの新情報を今か今かと待ち、残虐な事実を知るたびに、やり場のない怒りを紋切型の喋りでしか表現できないもどかしさに腹立つ、という状況は、まるで現実そのもので、犯人の少年や家族の言葉は雑誌やテレビというメディアを通して、実在の事件そのものだ。そこに生身の少年がリアルに描かれることで、コメンテーターや教育者の正義の言説の空疎さが浮き彫りになってしまう。 殊に沢野一家の悲劇は、前半のリアルな一家団欒の描写を経て、痛ましく胸に迫り、はからずも平成のスタヴローギンとなってしまう沢野崇の造形は真に魅力的だ。 かなり前に同じ作者の「高瀬川」のレビューで「リアルな細部はおもしろいけど、急にエラソーな作者がカオ出すと興ざめ」と書いたけれど、平野啓一郎がここまでの構築力を持つに至るとは……不明を恥じる。ドストエフスキー以来のドストエフスキー的興奮で、寝食忘れて読んでしまった。
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