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池波正太郎といえば、「鬼平犯科帳」に代表されるような時代劇作品が有名だが、食や映画についてのエッセイも多い。その内容は、熱々のカツレツ、ポークソテーを食べながら、ふとジャン・ギャバンを観た少年時代の思い出が頭をよぎる。といった具合に、昭和初期の東京の下町に生きた彼らしく、モダンな香りにあふれ、古き時代の記憶がよいアクセントになっている。
老境を迎えての日記であるため、内容の起伏は乏しい。身の回りの大事件といえば、体調の不良か友人知人の死である。日々も同様。昼に起床し、銀座に出かけ、買い物をし試写を観る。馴染みの店に行って飯(主に洋食)と酒。家に帰り、軽く食べて仕事にとりかかる。時にはさぼって挿絵を書いたり、本を読みふける。雑誌連載ゆえか、小説の執筆過程における裏話なんかも披露されない。
単調といえば単調。しかし、四季の変化が織り込まれ、少年・青年時代の思い出を挟みながら淡々と綴られていく日々の雑文は魅力的だ。そこには、戦前戦後の文化が分断されず、基底部分で連続している。その昭和文化の華やかさと奥深さに酔いしれる。初老を迎えても、子供の頃に食べて感激した洋食に舌鼓を打つ。その粋さに、古き良き東京の息吹を感じるのである。
銀座日記の最後の方になると、あれほど旺盛だった作者の食欲も細くなり、外出もめっきり減り、そのことについて心細く思っているとも書かれているが、同時に「順当なところ」だと受容している。その心情がひしひしと伝わってくる。
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