日本人が世界地図と聞いて思い浮かべる絵。でも、“日本の常識は世界の非常識”じゃないけれど、その絵を考えるのはじつは少数派。欧米では全く別構図の地図を使う。
だいいち、日本の世界地図では、日本が“極東”と呼ばれる理由や、イラン・イラク戦争などが“中東”問題と称されることが説明できない。
池上氏は、世界各地に取材旅行をすると必ず、その国や地域で発行された世界地図を買い求めるのだとか。その国や地域が直面する国際課題が、地図の上に如実に表わされているからだ。
本書は、氏の“地図コレクション”をベースに、国際問題の根深さ奥深さ複雑さを徹底分析しようとの試みである。
地図を語るのに「四色問題」の話は不可欠だ。隣り合う国は違う色で塗るだけの単純な話だが、一筋縄ではいかないから悩ましく厄介だ。
中国本土と台湾の塗り色が違うというだけの理由で、日本から中国に送った教材が没収された。日本で言う北方領土は、ロシアの地図では当然の如くロシア本国と同じ色。
他方で、北朝鮮では、国交を結んでいない、すなわち国家として存在を認めていない日本とアメリカへの色塗りを拒んでいる。
氏は、「地図会社ってたいへんなんですよ」と冗談めかして言うが、同じ表現になるはずの現実が国家によってここまで異なる表現になっている事実から目を背けるわけにいかないのが厳しい現状なのだ。
同じ海なのに呼称が違う、1本のはずの国境線が二重に引かれている、などなど、国際社会が抱える難題を、1枚の地図がみごとに物語っている。
それだけに、宇宙空間から撮影した地表面には国境線などまったく存在しない事実が、しかし今度は環境問題と相俟って、非常に重くわれわれにのしかかるのだ。
氏の解説はいつもながら非常に明快。地図が話の中心だから、小学校高学年でも興味関心を持てるだろう。
ごくふつうの世界地図帳とともに、“一家に一冊”常備しておきたい。