民俗学でも重要な研究対象として扱われる「正統的な」民間伝承の妖怪に比べ、とかく低く見られがちだった近世以降の創作物の中の化物たち(言われてみれば私自身も、何となくそんな感覚を持っていた)。米国出身の研究者である著者が、これまであまり日の当たらない存在だった江戸時代の黄表紙本に登場する化物に、ユーモア性という観点から光を当てた解説書である。
時には現実社会の投影、時には身の回りの文物の擬人化、時には言葉の遊び…。怪談話や英雄伝の恐ろしい化物とは異なり、本書の化物にはドジで庶民的なものが多い。特に著者が注目するのは、アウトサイダーとしての化物たちが人間社会に入り込もうとしては価値観や身体感覚の違いにぶつかって失敗する、というカルチャーギャップの物語である。逆に(落語『一眼国』の主人公のように)普通の人間が化物や異邦人の世界に迷い込む話についても取り上げられている。
十返舎一九や平賀源内といった有名どころの作品もあるとはいえ、全体的にはストーリーとしても稚拙、キャラクターとしてもステレオタイプの感が否めないこうした物語が、果たして現代の感覚で「面白い」かどうかは微妙なところだろう。普通の人間が巨人国や小人国といった異世界に迷い込む話にしても、『ガリバー旅行記』や『不思議の国のアリス』などに比べれば格段に見劣りする内容でしかない。しかし、様々な騒動を巻き起こしながらも無邪気に人間社会に溶け込もうとし、やがて訪れた明治時代には、有名な「化化学校(ばけばけがっこう。p.171)」の絵の中で人間同様に戸惑いながら欧米文化を学んでいた化物たちの系譜は、例えば藤子不二雄A『怪物くん』や高橋留美子『うる星やつら』といった漫画作品に登場する異界・宇宙からの来訪者にもつながっているのかもしれない…。そんなことも考えさせられる1冊だった。