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しかし彼は難病におかされ、片脚を、両脚を、両腕を次々に失っていく。そんななかで彼がふと回想する家族は、手足が不自由で動くことも出来ず恨みがましい目をした妹と、そんな妹だけに愛情を注いだ両親。「田之助が知っている団欒、田之助がどうにも我慢できなかった、そして向こうもまた田之助を拒んだ家族の団欒というものは、心を寄せ合い肌を寄せ合い、いじましいほどにささやかな温もりに満ちた一種奇形な幸福の図だった。報われぬ者がその無力さを以って守ろうとする最後の、たったひとつの砦、---ひと思いにぶち壊してしまったほうが遥かにましな、情けない、悲しいばかりの場所だったのである」。自分はなぜ「こんな冷たい、誰もいない場所」にたどりついたのか、田之助が淡々と思い巡らす場面が印象的でした。
田之助の役者としての自負と意地と、人間としての孤独と業。江戸という時代の終わりを舞台にして、それがさらりと描かれた名作です。これだけ重い内容なのに、明るくて面白い。
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