第八回江戸川乱歩賞受賞作品(昭和37年)
戸川昌子『大いなる幻影』と佐賀潜『華やかな死体』は、乱歩賞同時受賞。塔晶夫(中井英夫)『虚無への供物』、天藤真『陽気な容疑者たち』が選外なので、激戦だったんだろう。
■大いなる幻影
夫の遺稿をひたすら清書しつづける老女、愛人のバイオリンの名器を盗んだ過去に苛まれる老女、ゴミに囲まれ拾ったさなかの骨を日々食す老女。 絶望のうちに妄執にとりつかれた人々の描き方がすばらしい。7年前に起こった誘拐事件の犯人探しが、このドロドロの人間関係の中でのストーリーの本筋かと思いきや、さにあらず。予見がズバスバあたる信仰宗教の教祖さまがあらわれたりして。これも謎のひとつ。
かなり強引というか、都合良すぎなところも感じてしまうけれど、どんでん返しは成功していると思う。登場人物と一緒に、読者も”大いなる幻影”に惑わされるというところか。
発表されてからほぼ半世紀。時制が前後したり、話の流れと一見無関係と思われる唐突な挿話があったりと、読みにくいところはあるんだが、それを差し引いても傑作と思う。
■華やかな死体
作者自身のキャリアを生かした法廷物で、さすがに臨場感がたっぷりだ。検事四年目の城戸と、法廷戦術にたけた山室弁護士の攻防戦がみもの。城戸のコンプレックスと野心が、公判をおうごとに一喜一憂する姿とかさなっていて面白い。すっかり感情移入してしまって、不利な状況にイライラさせられるほど。
登場人物それぞれの思惑が、思わぬ方向へ事件の結果をもっていくのだが、このあたりの展開の仕方が巧緻だと思う。ラストは少なからずストレスが溜まるんだけど。
派手さはないが、法廷劇が好きなかたにはおすすめできる。