本書は、1907年に生まれ1993年に亡くなった日本法制史研究者(法学博士)が、1964年に刊行した本であり、1997年6月末時点で56版を重ねている。本書の特徴を以下に列挙する。第一に、江戸時代の刑罰が、それにより毀損される対象によって、生命刑、身体刑、自由刑、財産刑、身分刑、栄誉刑に概念区分され(9頁)、それぞれが第I章で詳しく論じられている。第二に、身分制度を反映して、正刑(一般的な刑罰)と閏刑(特別な身分の者だけに科せられる刑罰)が区別される。第三に、江戸時代が戦国の遺風の下にあり残酷な刑罰を課す前期と、幕府の刑罰体系が整備確定された後期に分けられ、その画期が1742年の『公事方御定書』下巻に求められている。第四に、戦国時代=一般予防主義、江戸時代前期=一般予防主義(威嚇主義、見懲主義、懲戒主義)、江戸時代後期=特別予防主義(改悛重視、教育刑主義、懲役主義)という流れが想定されている。第五に、江戸幕府法における主要な刑罰は死刑と追放刑であり、牢屋は原則として刑の執行場ではなく、被疑者を収容する未決拘置所であった。第六に、牢屋は不衛生であり、そこでは一定の儀式や私刑が見られ、身分ごとに待遇が異なり、不正や賄賂も横行していた。第七に、江戸後期には人足寄場の成立と共に、近代的自由刑への転換が見られる。第八に、本書は江戸後期を中心に論じ、それ以前の刑罰については必要に応じて触れている。第九に、本書では牢屋の平面図など、図も多用され、また制度のみならず具体的な状況も生き生きと叙述されている。60年代の研究ではあるが、非常に体系的かつ実証的で、しかもイメージがわきやすい本であり、刑罰の歴史に関心のある人にはお薦め。