Aさんが財布を落とした。中には三両という大金。Bさんが拾って届けたが、Aさんは受け取らない。一度懐から飛び出た金はオレのものじゃない、この金で酒でも呑め! ところがBさんも頑固だ。冗談じゃねェ、拾った金をネコババするようなしみったれた了見なら、とっくに棟梁に出世してらァ! 意地の張り合いから殴り合いになり、大岡越前の裁きを受ける--『三方一両損』という落語には、金と出世を嫌い、「宵越しの銭を持たない」江戸っ子の生き方がよく表れている。
金を貯めるなんざぁ江戸っ子の恥、というわけだが、蓄えもなしにどうして日々の暮らしが成り立ったのか? 古典落語32席を丁寧にひもといてゆくと、仕事とお金との正しい関係、隣どうし助け合う暮らしが見えてくる。
大ヒット企画『落語 昭和の名人 決定版』好評連載に大幅加筆。江戸学の旗手・田中優子(法政大学教授)による、初めての「落語論」。人生に「勝ち」「負け」はない、自分ひとり幸せになる魔法もない--落語の登場人物がリアルに浮かび上がり、現代を生きる人々に語りかける、「しあわせ」への道しるべです。
編集者からのおすすめ情報
一般社会からドロップアウトしそうな「与太郎」や「粗忽者」が、なぜ落語界ではスーパースターなのか。その理由がよくわかり、落語通にもオススメの一冊です。
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