短編集『汝ふたたび故郷へ帰れず』です。三本収録しています。いずれもおおざっぱにいえば出直しの話です。
表題作『汝ふたたび故郷へ帰れず』は文藝賞受賞作で、ボクシングを扱ったスポ根です。離島出身の主人公が、一度はボクシングからドロップアウトしながらも、故郷で自分を取り戻し、復帰戦に挑むという話。
『スピリチュアル・ペイン』は、主人公の父親が子供の頃からずっと引きずっていた、戦争に連れて行かれてそのままの馬への思いを、主人公がどう受け止めるか、という話。戦争へ馬が連れて行かれた、というエピソードが時代の流れとともに忘れられる。それに対して銅像を作る主人公。ところがその銅像すらも時の流れの中で忘れられます。
『プロミスト・ランド』は小説現代新人賞を受賞した作者のデビュー作です。禁止された熊撃ちにあえて挑むマタギの話。マタギとは猟師のことです。自分の進むべき道を理不尽に閉ざされ、それでも信念を貫き、そして、再出発です。
ボクシング、馬、猟師と、三作それぞれに題材は違いますが、いずれも、大人の落ち着きをそなえた文体ながらも、主人公には炎のような情熱があり、エンターテインメント的な面白さも申し分ありません。専門知識に関する細かい描写も行き届いていて、三作ともきわめてハイレベルな珠玉の短編小説です。