カントは多くの人が思っているのとは裏腹に控えめな主張しかしていない。
タイトルとか「常備軍全廃」とかの記述に引きずられているのかもしれないが、あえて言えばカントは「永遠平和は実現する」とは言っていない。
カントが本文と第一補説の最後にそれぞれ何と書いているか見てみよう。
「(前略)ひとびとはこうした条件の下においてのみ、永遠平和にむけてたえず前進しつつあると誇ることが出来るのである」(p53)
「なるほどこの保証は、永遠平和の到来を(理論的に)予言するのに十分な確実さはもたないけれども、しかし実践的見地では十分な確実さをもち、この(たんに空想的でない)目的にむかって努力することをわれわれに義務づけるのである」(p71)
カントの想定する「永遠平和」はあくまでも「漸近形=次第に近づいていくもの」として捉えられており、それが完全な形で実現するものだという、それこそ空想的な平和主義を彼はとっているのではない。
カントが恐れているのは、「そもそも平和など意味がない」とか「政治は力の争いであり、平和であるか否かは重要でない」、「平和は体のいいイデオロギーの道具である」のような形で、平和という「理念」そのものへの懐疑である。
これに対してカントは、永遠平和に「向かって進み続ける」ことが十分に現実的で意味のあることである、ということを本書で力説しているのである。
ゆえに、本書において永遠平和は「信ずるに足る理念」であって、「実現するもの」と捉えるのはあまり妥当ではないように思われる。ただ最近の平和論でのカントの引かれようはどうもこの誤解の方に基づいている気がするが・・・