永遠の歴史という本書のタイトルは、ボルヘスの短編集としては、最適な表題であると考える。
ボルヘスは永遠の歴史をたどる。プロティノスの「エンネアデス」、プラトンの「テアイトス」などから材料を調達し、そのような歴史を構築していく。永遠は、イデアであり、原型の貯蔵庫のようなものであると考える者がいた。永遠は時間という幻影の形相であり、それは時間の積み重ねによっては成立しえない。また、永遠は一瞬の内に、すべてを内包する存在(存在ということが許されれば)であるとする者もいた。これらの永遠に関しての議論は、神学者にとっても無関係ではない。アウグスティヌスやその他の人々もこの問題に巻き込まれたのである。およそ、神や絶対者なるものを論じるのであれば、永遠と付き合う必要があるらしい。ボルヘスは自らの永遠の歴史に関する記述が不十分であり、自らの手元にあった文献のみで書いたことを認め、その点に関して、読者に注意を促す一方で、自らの体験を記すことで、永遠に関する記述も結んでいる。
本書には、永遠の歴史以外にも、ボルヘスの短編が収録されているが、それらも、永遠の歴史と無関係ではない。訳者が指摘しているように、ボルヘスの関心は、一、原型、神、そして、それに対応する幻影に向けられており、それらの短編に通底するテーマの深さは、大きな印象を読者に与えるかもしれない。
ボルヘスは難解であると思うのは、私だけではないだろうが、彼が持ち出す、人物、文献の多様さに起因するだけではない。むしろ、それらの材料(断わっておくが、それらの著作を貶める意図はない)から、思考の網を巡らせ、一つの世界観を作りだすボルヘスという人物に起因するのではないだろうか。
彼の「伝奇集」「創造者」「続審問」すべて岩波文庫、「エル・アレフ」平凡社ライブラリー、「不死の人」白水Uブックスなども参考にして頂きたい。