外国で暮らしていたころよく友人の家で朗読会があった。朗読よりも、その日の楽しみは、鶏をトマトソースで煮込んだものやグラーシュのような肉の煮込みを食べながら、週末のプランを聴くことや音楽界の裏話を堪能することのほうがわたしは好きだった。だけれども、たしかに、そこには詩があった。ダンテの神曲をすべて暗記しているイタリー人の神父が解説付きで詩を唱えてくれたり、俳優みたいな声音を使ってシェイクスピアのソネットを朗読する人もいた。
吉田さんの最新本を読んでまずうれしかったのはこの本には詩を通した暖かい声があることだ。何度も聴いてきたシューベルトの歌曲、「辻音楽師」だとか「菩提樹」のような曲を聴くたびに音楽もさることながら、その言葉に魅了される。言葉を通して味わった感興を音楽にするのだろう。わたしの知人もそうだった。彼はオーデンやヴァレリーに魅せられて彼らの詩に音楽をつけるのが好きだった。
アイルランドに住んでいたとき、コーク湾の風景を見るのが好きだった。冬の雨ばかりの日々と違って、夏のコークはとても美しく、ヨーロッパの小さな都市の緑と石と煉瓦の風景が懐かしい。吉田さんの本を読んでいて、アーノルドの、
The Sea is calm tonight.
The tide is full,the moon lies fair
というドーヴァー湾と題された詩が懐かしく思いだされる。わたしにも音楽を書く才能があったらヨーロッパのあの風景を描いてみたいものだ。