もしかして何度目かの水木しげるブームが到来しているんだろうか。まさか、昭和30年代の水木さんの貸本時代の恐怖マンガまで発掘されて文庫本で手に入る時代がやって来ようとはね。
全10篇。読みでがある。当時は、まだアシスタントもいなくて作者はひとりでしこしこ書いていたらしい。背景の暗がりの描線なんて、もう水木しげるそのもの。マニアにとってはたまらないはず。東真一郎名義で掲載された「髪 KAMY」なんていう珍品も収録されている。
正直なところ、私にはあんまり恐怖は感じられなかった。むしろあのブラックな諧謔のセンスに痺れてしまう。顎の長い「三島ユキ夫氏」とか、加藤唐九郎の「永仁の壺」とか、なつかしい時事ネタが細部にちりばめられていて、目のつけどころは風変わりだ。なんとも人を喰った会話におもわずニヤリ。
年季のはいった水木しげるファンには、まさにお宝としか言いようのない初期作品集ですが、それほどでもない普通の読者にとってはどうなんだろう。読むひとをかなり選ぶ作柄であるような気がする。京極夏彦の愛情のこもった解説は好感がもてた。