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水底の歌―柿本人麿論 (下) (新潮文庫)
 
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水底の歌―柿本人麿論 (下) (新潮文庫) [文庫]

梅原 猛
5つ星のうち 3.8  レビューをすべて見る (4件のカスタマーレビュー)
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登録情報

  • 文庫: 432ページ
  • 出版社: 新潮社 (1983/02)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4101244030
  • ISBN-13: 978-4101244037
  • 発売日: 1983/02
  • 商品の寸法: 15 x 10.6 x 2 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 3.8  レビューをすべて見る (4件のカスタマーレビュー)
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By 宣長さん トップ50レビュアー
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人麿の時代、台頭しつつあった藤原氏による律令政治の形成と確立のために宮廷の祭祀芸能は一旦根絶されるが、この転機に初期王朝歌人額田王や歌聖人麿が如何なる境遇に陥ったかは今なお不明である。全国の柿本神社が列島の各地に点在しており、その縮図として石見の国(現在の島根県西部)を人麿終焉の伝説地が縦断している。彼の終焉の地が畿内の防波堤にでもなるかのように分布していることで、人麿個人における晩年の〈真実〉は永久に説明できない。藤原氏(律令政治)にとっては悪人、罪人に過ぎない人々を鼓舞する人麿の言葉は、史実を語り尽くせるものではあり得ず、真実の〈歌〉の言葉として、歌聖の言葉としてのみ辛うじて、しかしこれほど力強く生き残った。このことが人麿自身の望んだことであるかどうかは、それが〈真実〉に関わる以上不明である。この歌聖終焉の地がはっきりと此処であるとは同定できないようなかたちで散在している現在の文化史上の事実を、当時短歌界の大御所だった斎藤茂吉が苦難の踏査、膨大な考証の末鴨山湯抱説として結論付けた。その論考は茂吉全集で読めるが、若かりし梅原さんは当時これに強く反発しつつ、人麿の死が水死、それも流刑死であることを推論していく。梅原日本学の端緒となった、古代政治に対する告発の書でもある。
 続編の人麿歌集論『歌の復籍』は今絶版で読めず、文庫化が望まれる。
 人麿論はその後、『古事記』人麿原作者説となり、仏教論と並び梅原さんの日本思想論の双極にまで深化しているが、一般にもあまり認識されていないのではないだろうか。
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あとがきによれば、当該著書の要約として、「『水底の歌』のはじめの三分の一は、主として斎藤茂吉の人麿の死亡地を湯抱の鴨山に定める説にたいする批判である。(中略)『水底の歌』の後の三分の二は、契沖、真淵説の批判にあてられている。ここで、私は人麿の身分論と年齢論、古今集の序文論の三点において契沖、真淵説を徹底的に批判した。人麿は今まで考えられていたより二十歳ほど年をとっていて、その身分も少なくとも五位以上、おそらくは従四位下であり、持統天皇に寵愛され、一時は宮廷詩人としてその権勢を誇ったが、やがて律令政治家藤原不比等の登場と共に宮廷を追われ、ついに石見の海で刑死、水死したのではないか。こういう見方に立てば当然万葉集にたいする考え方も変わってくる。万葉集は二次にわたって編集され、一度は橘諸兄と大伴家持によって天平勝宝五年(756)に、流刑になり水死した人麿の歌を中心に、彼を悲劇に追い込んだ藤原権力批判の意志をもってつくられ、・・・」となる。
この人麿の身分論と年齢論、古今集の序文論の三点は、スリリングな追及であり、推理小説を読むような面白さがある。こうして引き出された人麿像は、従来六位以下の下級地方官と考えられ、普通の人生を全うしたと想定された人麿像とは似ても似つかぬものであるだろう。なお、柳田国男が書いた日本の神についての「人を神に祀る風習」という論文からの引用(当該書下、239ページ)も、甚だ興味深い。以下に引用しておこう。「支那で祠堂(しどう)と謂ひ我々が御霊屋(みたまや)と名づけた一家専属の私廟は別として、弘く公共の祭を享け、祈願を聴容した社の神々の、人を祀るものと信ぜられる場合には、以前は特に幾つかの条件があった。即ち年老いて自然の終わりを遂げた人は、先づ第一に之にあづからなかった。遺念余執といふものが、死後に於てもなほ想像せられ、従って屡々タタリと称する方式を以て、怒や喜の強い情を表示し得た人が、このあらたかな神として祀られることになるのであった」。柿本神社は、全国に七十あるとのことである。
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By 紫陽花 VINE™ メンバー
「隠された十字架」と共に"怨霊史観"を世に知らしめた梅原氏の代表作。本書は柿本人麻呂論だが、その没地について斎藤茂吉の説を批判しながら論考した上巻より、官位を含む人麻呂の謎、そして飛鳥〜平安時代の歴史観を綴った本巻の方が遥かに面白い。

梅原氏の説は必ずしも論理的ではなく、学術的成否は怪しいのだが、兎に角面白い。その説は直観推理とでも呼ぶべきものなのだが、記述に込められた情熱は凄まじく、読む者を引き込む力がある。「赤人の諦観」、「黄泉の王」等も同種の魅力がある。本巻では「古今和歌集」中の紀貫之の仮名序が重要な役割を果たすのだが、紀貫之ともあろう人物があのような曖昧な文章を残すとは罪作りである。そうではなく、反藤原グループの紀氏の立場として、高度に抽象化して意図して書いたのなら、流石とも言える。

梅原氏は最近、出雲王朝の存在を主張した新刊を上梓されたが(未読)、今後も歴史の謎に取り組んで我々に楽しみを与えて欲しいと思う。
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