勘にすぐれた方なら『水のなかの蛍』というタイトルからだけで本書の内容を推測される方もいらっしゃるかもしれません。
古ぼけた西欧調のアパート「風見館」に住む住人と、津村というマスターが経営する喫茶店「前奏曲(プレリュード)」に集まる人々には共通した過去が存在しています。 その過去を償う為に生きるべきなのか、それとも死ぬべきなのか。共通の過去を持った「風見館」の住人と「前奏曲」に集まる人々の考え方や答えはそれぞれの意志のもと、まちまちに転じます。
本書を読破した時点で、鋭い光が差すような明瞭な希望を体一杯に感じることはできないかもしれません。 しかし、胸の奥に残る答えは「死ぬこと」なのではなく、「生きること」であると感じることができると思います。 後悔が過去にあったとしても「死ぬ」ということが、その精算にはならないし、かと言ってその後悔を引きずりながら生きていくことをその精算にしなければいけないというわけでもない。 その後悔を胸の奥底にそっとしまっておきながら、時にその悲しみがふと現れてしまった時には、まるで蛍が行き交う澄んだ水のほとりにそっと佇むようにしてそれを見守ってあげるような生き方でいいんだと教えてくれる暗い文面には反比例した前向きな本だと思います。
要所要所で次を読みたくなるようなハプニングや出来事も本書にはあり、文章もしっかりとしていてそういった面では読みやすくボリューム感も感じられると思います。