「水の欠乏と生態系の衰弱は急成長中の大国である中国とインドのアキレス腱であるが、それは同時に、比較的水が豊かで自由民主主義の西洋工業国にとって、世界秩序を変えてゆくリーダシップを再びとるチャンスでもある」。
著者はアメリカのジャーナリスト。水を制した文明が栄えて失敗した文明が衰退した歴史を丹念に紐解き、現代文明が直面している水問題の深刻な状況を詳細に解説している。
チグリス・ユーフラテス、インダス、ナイル、黄河と揚子江。なぜ大河流域で先進的な文明が芽生え、それぞれの違いはどこにあり、どうして衰退したのか。中には現代人への教訓も含まれている。古代ローマ繁栄の源になった水道網と食糧生産を支えたナイル川流域の支配。ヨーロッパ文明において地中海が果たした役割。揚子江と黄河を運河で結んで内陸文明を繁栄させた中国。水の制約が特徴づけたイスラム文明。
小川が多いヨーロッパでは水車の活用が盛んになる。森林伐採が進み木材不足になったことが石炭文明を生み、炭鉱での大量排水の必要性から蒸気機関が生まれる。都市化による衛生問題は上下水道の整備を促す。水の鮮度を保つ大樽が大航海時代を後押しする。ヨーロッパ各国は海の覇権をめぐって争い、それを制した国々が飛躍する。
ミシシッピ川流域整備とアメリカの発展。パナマ運河。水の少ない西部はコロラド川をダムで活かすことが飛躍につながる。そして、ダム建造は世界に広がり、20世紀中に世界で作られた大型ダムの数は何と45,000に上る。しかし、真水の有効利用を促進してきたダムの弊害が顕著化。上流からの栄養分が届かなくなり土地が痩せ、土壌の塩類化も進む。扇状地の形成が止まって海の侵食を受ける。生態系も打撃を受ける。
ナイル川をはじめ貴重な水源をめぐって上流と下流の国家間で争いが始まる。サウジアラビアの帯水層は2025年には底をつく。アメリカ、中国、インドの3カ国で世界の食糧生産の半分を占めるが、アジアの大河の水源である高地山脈地帯の環境が温暖化で変わりつつある。大量消費されてきた再生不可能な化石地下水層の枯渇も進む。水汚染も深刻だ。2035年には中国の淡水源の1/3が失われる。中国とインドの農業生産は今や頭打ちになり、食糧純輸入国への転落が秒読みに入る。世界の食料価格は暴騰するだろう。それでも、世界の人口は増え続ける。
海水脱塩化は課題が多く補助的な対策にしかならない。著者は水の有効利用について様々な提言をしているが、人類救済につながる新たなブレークスルーはまだはっきり見えてこない。
尚、ミッドウェー海戦は空母対空母による前例のない戦いではない。初の空母艦隊決戦は珊瑚海海戦である。