比較的長い事例をもとに民法学の実力を正面から問う、非常に優れた演習書です。
率直に言って、判例・通説にあてはめて機械的に結論を導き出すだけならばそれほど難しくない設問が多いです。ところが本書に収録されている設問の中には、そうした紋切り型の発想では事案の妥当な解決を図れない(不当な結論に至ってしまう)ものも含まれています。それこそが本書の特色なのです。判例・通説に従った場合の不具合をどうするべきか。もしそこで判例・通説を墨守するあまり妥当な解決の可能性から目を背けるといったことになれば、法律家としてはむしろ失格です。少数説に従った検討をも躊躇せずに、民法の知識を総動員して、あの手この手で種々の可能性を模索していかなければなりません。
このような性格をもった本書を独学で消化吸収していくためには、やはり勉強会を組織する必要がありますし、参加者の個人的な実力がそれなりに合格に近いレベルに達していることも不可欠です。民法に自信が持てないうちは取り組むべきではないでしょうし、勉強会を始めるに際しても仲間選びをよく考える必要があります。理想的な活用をできないまま本番を迎えざるを得ない方々も多いかと思います。
しかしその一方で、平成23年度の司法試験では(比較的対策が容易だった)従来型の事実の評価を問う設問がなくなり、いわば「本格派」の設問ばかりが並ぶ結果となりました。融合問題がなくなったことが出題傾向の変化に影響していると考えられ、こうした流れは今後も続くと予想されます。そして、あのような直球勝負の問題に対応する能力を養うための教材として、本書が最も優れているのは間違いないと思います。受験生ならば本番までに是非とも挑戦しておきたい一冊です。