興味深く読んだ。その意味で買って損はない。
A)肯定的な側面。明治前期の史実に関するリソースとして価値は高い。というより、大量の、気付きにくい、ただし重要な情報満載である。学界での研究業績への周到な目配りには感心した。読者はこの本のどこかしらに、己の興味関心を惹く話題を眼にすることができる。私にしても、幾つもの再発見をさせてもらった。
B)否定的側面。History なのに story がない。私は、「面白い、面白い。」で読了したあと、「さて、俺は何を読んだのだろう。」と、暫し首を傾げてしまった。これは、史書として少々、致命的。
ただし、この点について、著者はその苦衷を正直に「あとがき」に記している。
「「民権と憲法」というタイトルでこの時代を描くのは気が重かった。」p.207「だが、私自身はそれらを活用してまとまりのある歴史像を描けるまでには至らなかった。」同上
一つ言えることは、著者も漏らしているように、タイトルと内容の齟齬である。タイトルから受けた私の予断は、簡便で最新の「明治憲法成立史」なのかな、であった。それでちょっとワクワクもしていた。その点、結果的に些か失望した。 これは、著者の責任というより、出版社側、ないし編集者側の問題だろう。「民衆と憲法」というタイトル、ないし主題で依頼するなら、近代日本を領分とする法史学系か、政治史学系、ないし思想史系の研究者に任せるべきだった。
逆に、この著者を出版社として選んだなら、タイトル、ないし主題は、「民権から憲法へ」、とか、「臣民の誕生」、「民草から臣民へ」といったものが適切だったろうと思う。そうしたら、著者も生き生きと己が納得する一書をものすることができたかも知れないと推察する。その無理が、せっかくの食材をおいしい料理へと化学変化させられなかった最大の問題と考える。