オスマン帝国下の諸民族の社会状態と、ヨーロッパ勢力との関わりの変化による帝国内の諸民族の多様な変化について詳述することを通じて、民族と国家が必ずしも斉一に重ならない様を示し、国民国家体制や民族、あるいは宗教という人々の統合原理について再考するという趣向の一冊。地図を多く収録し、巻末には主要参考文献と文中の主要なアラビア語などの用語の解説一覧も掲載している。
読んでいくと、統治の場から見て上層からの把握である国家と下層からの把握である民族、それら二種の把握を乗り越える把握としての宗教という計三種の統合原理のせめぎ合いが、前記の二種を一体化したかのように擬制する「国民国家体制」という統合原理の勝利に終わるさまが展開されていく。その成り行きにおいて冷戦後に再び民族紛争が再燃するというのは、ここでの議論との連続性でみていけば非常にわかりやすい。
また、旧オスマン帝国領から国家を形成した中東・北アフリカの諸国が決して等質的ではなく、その国家形成においてイマーム首長一致型支配(イエメン・オマーン・キレナイカ・ヒジャーズ・モロッコなど)イマーム首長連合型支配(サウディアラビア)非イマーム首長単独型支配(クウェート・バハレーン・アラブ首長国連邦など)官僚軍人寡頭型支配(アルジェリア・チュニジア・リビア・エジプト)植民地委任統治型支配(イラク・シリア・ヨルダン・パレスティナ・レバノン)という五つの類型に分けられるという指摘があり、中東についてのイメージが変わった。昨今の政変に巻き込まれているのが四番目の類型に当てはまる国々であることが、この分類の説得力を高めている。
そして、読み終わってみると、このような統合原理の角逐に悩まなくても良くなっている自分たちの社会についての参照点になる議論があった。他の社会に対する感覚と自分たちのそれを同時に鋭くしてくれる効果があると思う。