年末に北陸へ向かう『しらさぎ』の車中で、
この本を手にとった。
北へ向かう特急列車ですら、
小説の極北へと向かう、
この物語のスピードに追いつかない。
『民宿雪国』の血塗られた凄惨な逸話が、
車窓に広がる白銀の雪景色の静寂(しじま)に溶けこむ。
絵画をモチーフにしながら、
小説家の筆捌きに脳内に絢爛たる名画が生まれゆく。
樋口 毅宏の書く物語が
過酷すぎる人生を反映し、
劇的なピカレスクであればあるほど、
より鮮やかに読者の「人生の平穏」を際立たせ、
そして「読書の悦楽」を煽る。
「人生は短い、一日は長い」――。
故に人は本を読むのだ。
ベストセラーは瞬く間に「映画化決定」と銘打つが、
しかし、あえてこの本に一言を添えるなら
「映画化不可能」――。
樋口作品の全てに、この称号こそ相応しいのかもしれない。
著者は無類のシネマディクトではあるが、
映画を発想、引用のベースにしながら、
映画を超えていく絶対小説世界を屹立している。