ポール・コリアー氏の前著をお読みの方ならご存じだろうが、コリアー氏はまともな学者である。人目を引く目的で過激な論を打つわけではないし、データの裏付けのないまま極論を展開するわけでもない。
本書の邦題は、やりすぎじゃないかと思う。
コリアー氏は民主主義=普通選挙という狭い概念と民主審議="普通選挙+前提条件"というもっと広い概念の二つの概念を使いわけながら本書を書いている。後者の民主主義が先進国で機能している民主主義であり、その上で前提条件の整わない国々で、普通選挙だけを導入しても機能せず、混乱の種になる事を示しているのである。
コリアー氏は、民主的に政権を選べば全てがうまくいくと、単純に信じている人に警鐘を鳴らしてるのだと思う。
そして、社会・経済が安定していることや暴力が無いことを、普通選挙より重要な事と考え、それらが普通選挙の導入だけでは達成されない事を示している。すでにイラクという失敗事例を見てる我々には、総論としてのコリアー氏の持論は理解できるだろう。では何が問題なのか?本書ではその理由が詳細に説明されている。
為政者の利己心が長い時間をかけて近代民主国家を作り上げたというコリアー氏の持論は、不満な人もいるだろうが評者は納得が行く。
また、本書は結論にいたる思考プロセスも示されているのが読んでいておもしろい。
標準的な理論で説明できない事象がある時、その理由を推定する。この時の洞察の鋭さがコリアー氏の魅力であるが、それだけではただの評論家である。コリアー氏は経済学者であり、経済学的な手法、つまりデータをもとに洞察の妥当性を統計的に検証する方法を用いるのだ。本書に示された内容はそうした検証をへた結果だ。自分がカバーできないことは、数多くの他者の論文を引用しており、これもまともな学者らしい。
本書が大変深刻な問題を扱ってるのは事実だが、知的興奮を覚える内容なのも確かだ。