毛里和子が言うには日本で入手出来る毛沢東の評伝で、信頼に足るものはほとんどないそうだ。
筆者も管見の限りでは毛沢東の生涯のある一時期を取り扱ったものや、特定の思想に染まりきった危ういものが多い印象がある。
その様な中で本書は、つとめて中立的に、しかも世に出るまでの毛沢東を平凡人として捉えている点に価値がある。
故に特に恣意的な引用もなく、淡々と事実が書かれている。ために
『中国の赤い星』のように手に汗握るような事もなければ、
『マオ―誰も知らなかった毛沢東』のように「おいおい、本当かよ?」とぼやくような事もなく、少々眠い文章かもしれない。
しかし、実は潤色がなければ評伝が眠い文章になる、ということが毛沢東の真実であったとも考えうる。
原題は10年以上前のものであるから、指摘すべき点もあるが、中国近現代史を研究する上で必携の書といえよう。巻末脚注と資料が全て下巻に収録されているので、研究の際は上下巻揃える必要があるが、値段分の価値は十分にある。
余談であるが、欧米では
『毛沢東の私生活』、本書、『マオ』の順に世に出たようだが、この順を考えると如何に現地の学者が『マオ』に戸惑いを覚えたか、容易に想像がつく。