十数年振りに読み返してみて、改めて名作であると思った。日本のハードボイルドの金字塔といえる新宿鮫シリーズの中でも最高傑作といっていいだろう。最初から最後まで緊張がみなぎり、一分の無駄も隙もない。一気に読んでもよいし、じっくりと時間をかけて読んでもよい。そんな作品はそうざらにない。
この作品の中で鮫島は狂言回しの役割に徹する。もちろん、鮫島らしい魅力は随所にみられるのだが、それ以上に台湾から殺された恋人の仇を討ちにやってきた殺人マシーン楊、その楊を追ってきた、かつて楊の親友であった台湾警察の郭のふたりの造形が凄まじくよいのだ。そして、この作品の主役はなんと言っても、孤高の殺人マシーンを愛さざるを得ないほどの深い孤独をこれまで味わってきた、中国残留孤児の娘、奈美である。
楊と奈美は孤独がゆえに会った時から惹かれあっていくのだが、奈美の楊への純粋で一途な愛が殺伐で残虐な大量殺戮のストーリーに救いを与え、読後、むしろ温かい余韻を感じさせさえする。この愛情深い中国人との混血児、奈美の存在こそが、このハードボイルド小説を希代の傑作にしている所以である。バイオレンスな描写満載だが、そんな場面に目をつぶってでも、これからも多くの人に読んでもらいたい不朽の名作である。