介護に疲れて老親と心中。障害のある子どもの行く末を悲観して殺害。
このような事件があるたびに、「母よ!殺すな」を読みたくて仕方なかった。
障害者の権利獲得運動の歴史を扱う本や論文にはたいてい書名が紹介されているが、長らく絶版となっており、タイトルと、書かれた時代背景しかわからなかったのだ。ちなみに、本書の表題は、1970年5月横浜で発生した「障害児殺害事件」と、それに伴う「市井の善意の人」の減刑嘆願署名運動に対し、「殺される側」から異議申し立てをした運動に依っている。
本書は、脳性マヒの横塚晃一氏(故人)が、障害者運動の勃興期である1970年代に、「日本脳性マヒ者協会 青い芝」の機関誌などに寄稿したものを集めたものである。
意外なほど読みやすい、というのが偽らざる感想で、もっとアジテーション的な内容を予期していたのが心地よく裏切られた感がある。
ここに描かれた内容は、30年以上前のことだが、「子殺し」や「就労」「差別」など、現在もなお同様の問題がある。そして障害者が社会から隔離されることが当たり前だった時代だからこそなされた思索が、むしろ現在ではなされていないのではないかと思えることが気掛かりである。障害者に対して皆がフレンドリーで、それでいながらその異議申し立ての力を狡猾に削いでいる「バリアフリー社会」が広がり始めていないだろうか。もう一度、原点に返る必要性を感じる。
「この本は、この本がいらなくなるまで、読まれるだろう。そしてその時はこないだろう。しかしそれを悲観することはない。争いは続く。それは疲れることだが、悪いことではない。そのことを横塚はこの本で示している」。
立命館大学の立岩真也氏は本書の解説をこう締めくくっている。