中学生時代、著者の作品をよく読んだ。
『夜と霧の隅で』なども、一応は読んだものの、己の読解力のなさを甘やかし、
どくとるマンボウシリーズの軽いエッセイを特に好んでいた。
その中で『猛母』輝子のエピソードにも既に接していたので、
今作も軽いエッセイのつもりで手に取った。
とんでもなかった。
わがままには違いないが、凛とした美学を持ち続けた母輝子を描くときは
『楡家の人びと』の端正さで。
痴呆の症状をみせ、『死にたまう』父茂吉を描くときは『木霊』の怜悧さをもって。
二人を見つめる著者自身の若き日は『どくとるマンボウ青春期』の詩情あふれる
明朗さを響かせながら。
両親を描くという、狭いテーマにも関わらず、
北杜夫文学の多面性が、(決してダイジェストなどではなく)織り込まれた
見事な小説であった。
著者の長女である斎藤由香が同テーマを扱った「猛女とよばれた淑女」の
散漫さ、甘ったるさと比較してみると、著者が積んできた文学的修錬の厳しさが
より鮮明になってくる。
「血」だけじゃないんだな。やっぱり。