乾燥した野原に呆けたように立ち尽くす老女が、無表情にダンスを始める不思議なシーンから映画は始まる。
まるで不条理な今後の展開を予期させるような象徴シーン。
それを契機に始まるひとつひとつの描写には息を呑み続けることになるワケだが、一見縦軸となる「犯人探し」とは別の
一挙一動が恐怖へと繋がり、それが伏線となってラストへと結実していく、監督のそうした演出が見事。
例えば路上の息子が心配で裁断作業をしながら息子を注視する母。
指一つぐらい落としちゃうんじゃないか、とこっちはひやひやする。そこに車が突っ込み息子が轢かれてしまう。その時母の手は謝って指を怪我して血を流す。
母と子の関係の深さがこのシーンだけでつぶさに分かると同時に、今後
どんな事が起きてしまうのか、どんな酷い事でも起きてしまうんじゃないか、とこちらの想像をかき回すのだ。
これぞ映画らしい映像美ではないでしょうか。
その後も生々しく不気味な映像は続出。近親相姦を思わせるベッド描写。ペットボトルが倒れて徐々に液体が広がり、眠っている男の指先に辿り着こうとするシーン。バイオレンスシーン。血の流れるシーン。火のシーン。
巧みに計算され配置されたそれぞれのシーンが、緊張感を呼び、登場人物の暴走する狂気と共に、あっという間にクライマックスへ繋がっていく。
真犯人は誰か、という目的が「如何に息子を守るか。如何に息子を愛する自分を守るか」という強靭な母の意志に取って代わってしまう
ラストシーンも印象的だ。
そして、何があっても変わらない母の子に対する思い、子のためにはどんなことでもするという愚かしくもゆるぎない、おそらく古今東西を問わない母の思い。「人間の業」。そこには道徳も真実すら捻じ曲げてしまうほどの深さがある