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本格派ミステリには、作家に小説家としての描写力が欠け、ユニークなトリック以外には見るべきものがなく、読んでいて、味気なさを感じる作品が少なくないのだが、本書巻末の解説によると、バークリーは、この点について、探偵小説を、「人間性格の面白さ、文体、ユーモアなどの要素を無視した古い型の純粋かつ単純な犯罪パズルから、心理学的な手法に重点を置いた文学作品にまで発展させるべき」と考えていたようであり、彼のこうした主張は、特にフランシス・アイルズ名義で書かれた本書のような「犯罪心理小説」に色濃く反映されている。
本書は、主人公の妻殺しの完全犯罪を倒叙推理小説風に描いた「犯罪心理小説」なのだが、自分を捨てようとしている男に対するいじらしくもあわれな女心や、中年男の若い娘に対するプラトニックな純愛心理、自己中心的な女の身勝手な愛といった、男と女の機微に触れた心理描写の巧みさが際立っており、確かに、単なる謎解き小説にはない面白さがあり、彼の主張が伊達ではなかったことがよくわかる作品である。ただ、物語の展開上、そうするしかなかったのだろうが、後半、主人公に明らかな愚行を行わせるなど、プロットが粗くなってしまっている感があるのが惜しまれる。
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