一気に全十巻読んだ。この作品のポイントはやはり主人公イチの複雑なキャラクター設定にある。彼は、学生時代いじめられた経験からくる極端な防衛反応を持っているが、逆にそこからくるカタルシスにより性的興奮を得る嗜虐的性向を有する。さらに、「13日の金曜日」のジェイソンの如く情緒未発達で幼児傾向があり、二重人格的ですらある。登場人物も、ことごとくサド・マゾヒズム的傾向を持ち、彼らにとって死の恐怖は常に生への渇望と隣りあわせだ。しかし、この作品では肉体的存在としての人間に相当な憎悪が振り向けられており、男根や性器は怨恨の対象として苛め抜かれる。
しかし、イチの背負った哀しい運命が十分な悲愴感を伴って描かれていないところがこの作品に対する私の不満であるし、人の感ずる「痛み」を相当赤裸々に描写しているにも関わらず、どうもそこだけが突出しており、登場人物が抱える生きることの苦しみが今ひとつ伝わってこない恨みがある。私も阻害された少年時代を送ったから、空手かなんかを習って強くなりたいとか思ったこともあり、抜毛癖から頭髪の半分を失って不登校に陥り、室内でも帽子を被ったりしていたから、ちょっと共感できるところがあるといえばあるが、さすがにそこまではという思いはある。