『
怖い絵』シリーズで、名だたる絵画作品に落としこまれた西洋史の痛ましい物語を平易に興味深く提示してみせてくれた中野京子の最新刊です。
取り上げられる残酷な王と悲しみの王妃は次の5組。
イングランド王エリザベス1世と彼女によって斬首されたスコットランド王メアリー・スチュアート。
オーストリア・ハプスブルク家のレオポルト一世とスペイン・ハプスブルク家出身の妃マルガリータ・テレサ。
ロシアのイワン雷帝と七人の妃。
ハノーヴァー選帝侯でありイングランド王であるジョージ一世と彼によって30年以上も幽閉された妻ゾフィア・ドロテア。
イングランド王ヘンリー8世の二番目の妃で、やはり斬首されたアン・ブーリン。
この数年で『怖い絵』シリーズ以外にも『
名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書)』や『
名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)』に綴られた中世王朝史と重複する物語がほとんどかもしれません。これまでの著者の本にあたった経験のある読者の中には本書を手にして、また同じ話か、と感じる向きもあるかもしれません。
しかし私は同じ話であっても著者の文体には、何度でも読み返したいと思うほど魅せられているのです。
取り上げられている5組の物語は16世紀から18世紀にかけての史実です。今から300年から500年も前の、嗜虐的な絶対権力者に翻弄された妻たち。その彼女たちの物語の森の中に分け入るかのような現実感を味わうことが出来る文章なのです。悲憤と慷慨とに暮れる妃たちの姿が確かに私たち読者の眼前に立ち現れてきます。それは見事な文章です。
一気呵成に1日で読み終えてしまいました。
著者の次回作を心待ちにしています。
*「それを鑑みれば」(120頁)とありますが、正しくは「それに鑑みれば」です。