身体的特徴のみならず、知能、性格なども遺伝する。そだて方や教育によって「変わる」余地は、ゼロとはいわぬまでも相当かぎられている。ならば多くの自己啓発書が説くような努力や訓練や方法論によって、「よりよい=より豊かな」自分になることはおそらくできない。ここに著者の感じた自己啓発書への違和感がある。
ここから著者は、「よりよい=より認められる」に目指す方向を変え、そのために自分が好きなことで、「その分野でいちばん」になるまで分野の方を細分化してみよ、という。そして「好き」をマネタイズするための仕組みを“自分で設計”すれば、幸福の新しい可能性が見出せると説く。
しかし、自分の好きなことをみきわめ、それを収入にむすびつけるための仕組みを設計するような知的・社会的能力こそ、著者が「遺伝によるところが大きい」という知能や性格に依存するものではないのか? 村上春樹を思わせる、決してえらぶらないやさしい文体で、生物学や心理学の知見を引きつつ、読者といっしょに考えていくというスタイルは好感が持てたし、自己啓発書への違和感という問題提起にまっすぐに向き合う姿勢には敬意を表するが、結論の部分は、従来の自己啓発書が説いているところとさして変わらないという印象をもった。
むりに結論を出さなくてもよかった気もする。