登録情報
|
何がこの作品を成功させたのかは一目瞭然である。傑作『フリージア』の人間凶器、あるいは殺人機械と言うべきあの榊原が、何とまあススキノ探偵ワールドに入って来てしまったのである。それだけで何をか言わんや、のまずもっての期待度なのである。それまで両シリーズを読んでいる読者には、これ以上ないほどのストロングなドリンクなのである。
だから、まずこの作品が日本推理作家協会賞を受賞したということだけで、すぐにこの本を手に取ってしまってはいけない。娯しみは間違いなく半減するだろう。榊原の登場編である『フリージア』を、それとは別にススキノ探偵シリーズ『探偵はひとりぼっち』までの少なくとも長編4冊&できれば短編集『向こう端にすわった男』の5冊、締めて計6冊を読んでから、味わっていただきたい。これはシリーズものを読むときに最低限必要とされる、ホンモノのハードボイルド志向者の掟なのである。
そう出来の良くもないシリーズの場合はぼくはこんなことは言わないけれども、これは傑作だからこそ上記のマナー、いや掟に則って読み進めてきていただきたいわけだ。
というのも、これは両シリーズのオール・スター・キャスト作品であるからだ。一人一人がただ脇役というのではなく、この作品においてはあまりにも重要な役割をあてがわれるからだ。彼らなくは成立しないほどに重要な役割を。そして彼らを知るための近道はないのだ。彼らを本書で味わうための近道は。
ここまでストリクトリー・スピーキングで話を進めることは、無責任なぼくの場合あまりないことなのだが、今実は、日本で一番好きな(好きになってしまった)作家なのである。東直己は。そこまで惚れ込んだ。だから、この人の作品は、是非丁寧に読んで頂きたいのだ。商業主義ではなく、あくまで書くべくして書かれた、どれもが渾身の作品と感じるからこそ、また誰もが読んで損をしないだろう完成度を持った作家であるからこそ、自信をもってそう言えるのだ。
これからこの作品を読める人が羨ましい。この先にはまだまだ東直己の真骨頂である畝原探偵シリーズが待っているのだから。本当に羨ましい。
しかし、作風が異なる2作品の登場人物達(桐原組関係者は前作「フリージア」にも登場していたが)の個性を殺さぬようにしたためか、主人公の榊原の「スゴサ」が今ひとつ生かし切れていないのが気になった。物語の背景にある社会の闇の部分をベースにした「追いつめられる主人公達」というストーリーは、ラストまで一気に読ませるが、一つ一つのエピソード(特にラストの屋上対決で決着の付き!方)は、なんだか「ハリウッド的」な印象で映像化を前提にしてるのかな?と思ってしまう。とまれ、面白いです。「ススキノの便利屋」のファンの方もぜひドーゾ。「オレ」がデブッチョになってるのが、少し寂しいけどね。
札幌で「始末屋」として活躍した、榊原健三だが、現在は山奥に住み、木彫りで生計を立てている。彼の恋人であった多恵子は、彼と別れた後、川崎へ戻り、丸高建設に勤める平凡なサラリーマン高見沢と結婚したが、高見沢の転勤で再び札幌に戻っている。かつて彼女が札幌で事件に巻き込まれた際、彼は山を下り、札幌への進出を目論む関西系の暴力団を、ただひとりで壊滅に追い込んだ。そして健三の昔の女多恵子が再び札幌に住むことを知るものはいなくなった。「フリージア」
しかし5年が過ぎ、再び、多恵子が窮地に陥った。彼女の息子・恵太の保育園に殺人犯がたてこもったのだ。殺人犯は保母を殺害し、警察が犯人を射殺。恵太は無事救い出されたかにみえた。しかし、実際は、警察が保母と犯人を射殺したのだ。汚職事件に蓋をするために・・・。恵太が真実を語ろうとしたとき、恵太に魔の手が伸びるが、間一髪で榊原が救い出し、二人の逃避行がはじまる。
とにかく榊原が、「愛する女の息子を守る」ため、「生きのびる」ため、精密な機械のごとく正確かつ静かに仕事を成し遂げていく。一昔前に映画化するなら「高倉健」がはまり役か?
とにかく作品の最初から最後までテンションの下がらないままノンストップで進み、スピード感にあふれたハードボイルド作品である。
作者の過去の作品の登場人物も多数出てくるようだが、「フリージア」しか読んでいない私には、ついていけない部分もあった。最低限「フリージア」を読んでから本作品を読んだ方がよいだろう。
登場人物の言葉遣いに違和感を覚える箇所が数カ所在り、その分を差し引いて私にとっては星4つである。
|
この商品のクチコミ一覧
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|
|
|
|