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夫の実家、結婚前の彼の部屋の片隅にこの本はあった。「これ、借りるね」と何げなく手に取り、頁を繰った瞬間から私は凄惨な沖縄戦の真っ只中に放り出されたのだ。耳元をかすめる銃弾、頭髪が逆立つような爆風、空を焦がす火炎。いつか旅行で訪れたあの沖縄の、からりとした明るい空気が私の中でみるみる変質してゆく。いつしか主人公の比嘉真一の意識に呑み込まれて行く。
吉村氏は、冷徹なまでに端正な筆致で主人公が戦火に追われ、しかし一兵士として死に場所を求めるようにさまよう姿を描き出す。この臨場感は、時として音や匂いまでも感じるほどだ。吉村氏の作品には一貫して“死”と現実が縦糸として織り込まれているが、本作品はその中でも最も生々しい感覚を、読み手に与えるものではないだろうか。
日本で半世紀前、実際にこのようなことが起こったのだ。
青い海の沖縄にしか興味がないあなた、『プライベートライアン』を瞬きもせずに見通したあなたに、一読を勧めたい。
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