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『死霊』のもっとも重要な部分は、「虚体」という観念でありその思想であるという事は否定しません。しかし、観念だけを語りたいなら小説という形態は特に必要ありません。それこそ「不合理ゆえに吾信ず」のようなもので十分でしょう。
『死霊』は、観念を主題とした小説という前代未聞の企てを遂行する為、非常に独創的な仕掛けがなされています。それが全て成功しているとは限らないのですが、「夢魔」「愁いの王」「最後の審判」「大宇宙の夢」のような挿話群、四章や八章で執拗に繰り返される霧や月光の描写(これがまた非常に美しく表現されています)……数え上げればきりがありません。そしてそれは、非常に幻想的な、一種のファンタジーとして十分な魅力があります。登場人物の非常に長いお喋りも、途中で飽きないように考えられ、よく練られた文章になっています。埴谷雄高の独特の文体は、否応なく読む者を捕まえて放さない、力強く美しいものです。
元々、小説として書くことが不可能であったと思われることを敢えて小説として書いた『死霊』。それ故の苦労と工夫の跡がまざまざと刻みつけられ、「小説として」十分面白いものであることを発見した時、埴谷雄高はただ思想家であったのではなく、紛れもなく作家、それも非常に魅力的な作家だったのだと思い知らされるでしょう。
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