『死霊』は日本ではじめて書かれた「形而上小説」であるといわれる。それについて、どういうものが「形而上小説」であるのかという疑問が残るけれども、この『死霊』という小説がおもしろいことに変わりはない。
この小説が難解で、テーマが重いと思うのはこの『死霊』をおもしろがっていないからだろう。ユーモアに満ち溢れていて、さまざまな場面に笑うところがあるのに笑わない人は、この『死霊』という小説を高いところに上げているからだと思う。『死霊』を前にして、かまえすぎなのだ。もっとリラックスして読むべき小説だ。「あつは」も「ぷふい」も笑うところだろう。学校で習った「読解」という方法で読むと最後までつまらないものとなり、まして作者の主張をすぐに読み取ろうとするのはもっとも的外れな読みといえよう。日本語が難しいからといって、そのテーマが、簡単な言葉で書かれた小説よりも重要と考えるのも、間違った読みと思われる。私にとっては、星新一と『死霊』とは同じくらいの重要なテーマを持っている。多くの小説は、自分のためにあって、研究や論文のためにあるのではないだろう。『死霊』は何度も何度も読むうちにようやくぼんやりと何かがわかってくるものだ。
『死霊』は、最初にその笑いを楽しむこと、そしてそれに満足したあと、はじめて難解さを求めればいいと思う。